ベンツ C63 AMGは21世紀の500Eとなるか?


日本では6月にようやく新型Cクラスが発売になったばかりですが、本国では早くもその究極バージョン『C63 AMG』が発表されました。その車名が表すとおり、大方の予想に違わずあのAMG製6.2リッターV8エンジンが搭載されてきたというわけです。

このエンジンに関しては以前にもご紹介しましたのでここでは詳細を省きますが、C63にはややデチューンされた457ps/6800rpm、600Nm/5000rpm仕様が搭載されるようです(標準仕様は514ps/630Nm)。まぁ、デチューンとは言ってもこの数字ですから、コンパクトなCクラスに搭載されることを考えれば、全く控え目とは言えないパワーです。実際、そのパワーウェイトレシオは3.6kg/ps、0-100km/hを4.5秒で駆け抜けるというデータが公表されていますので、パワー不足を心配する必要は全く無用です。

C63のメカニズム的な特徴としましては、フロントサスペンションのロアアームを延長してトレッドを広げた点と電子制御スタビリティコントロールシステム、ESPにモード切り替え機能を加えたESPOを採用したことが挙げられます。まずフロントサスペンションに関しては、独自に設計されたロアアームを採用することでトレッドを35mm拡大しています。235サイズのワイドタイヤや専用チューンのサスペンションと組み合わせることで、より安定感の高い走りとシャープなハンドリングが両立されています。同じ3リンク式サスペンションを採用する先代AMGモデルでもここまでの大掛かりなモディファイは行っていませんでしたが、わざわざロアアームを作り直してまでトレッドを延長しなければならなかった理由があるのか、ちょっと勘ぐってしまいます。

またESPには、ESP ON/ESP SPORT/ESP OFFという3つのモードが用意され、手動で切り換えることが可能です。ESP ONは通常走行用のモードで、これをSPORTに切り替えるとよりダイナミックな走りも許容してくれるようになり、カウンターステアが当たるような走りも可能になりますが、それも度が過ぎるとエンジンパワーを絞ったり、ブレーキ制御の介入が入り、本当に危険な状況には陥らないよう制御してくれるというものです。そしてもうひとつのOFFモードでは、そうした制御は一切介入せず、ドライバーはエンジン性能を思いのままに引き出すことができるようになります。その分、ドライバーを選ぶことにはなりますが……。ただ、いずれのモードにおいても、ブレーキ操作時にはABSは作動しますので、そうした意味では安全にハイパワーを楽しめるシステムと言えます。

実はこうしたトラクションコントロールの考え方の違いが、同じハイパワーFRを扱うBMWとメルセデスの最大の相違点なのです。BMWでももちろん、ESPによってエンジン出力の制御を行いますが、ハイパワーモデルでは基本的にはLSDの作用によってエンジンパワーを積極的に活用して挙動を安定させるという考え方がそのベースにあります。逆にメルセデスの場合は、空転したタイヤにブレーキを掛けることでスリップを止め、擬似的にLSD効果を発揮させることで、クルマが安定するようコントロールしているのです。

メルセデスでもひと昔前まではやはりLSDを使ってトラクションを確保していたのですが、ブレーキによって制御する方向に変わってきたのが、500Eに採用されたASRを使い始めるようになってからのことです。それはともかく、トラクションが掛かりにくいハイパワーFR車の駆動力制御に対するアプローチの違いこそが、まさにメルセデスとBMWの『スポーツ』に対する考え方の違いを如実に表したものだと言えるのではないでしょうか。
さて、そのほかにもC63にはフロント6ポッド、リア4ポッドの大径ブレーキシステムやAMG独自の車速感応型パワステ、ブリッピング機能を持たせた7G-TRONICミッションなど、見どころが満載なのですが、分かりやすいところではとても派手なエクステリアが与えられた点にも注目です。拡大されたトレッドを収めるため、フロントフェンダーアーチはあの500Eを彷彿とさせるオーバーフェンダー状にボリュームアップされ、ボンネットにもそこに収まるV8エンジンを想起させる2本のパワードームが設けられるなど、AMGのレギュラーモデルとしてはかなり気合の入ったルックスが与えられました。これまでのAMGモデルも(C36以降)、エアロパーツやホイールなどで差別化は図っていたものの、ここまで激しいコスメチューンは行っていませんでした。そのため、顧客からはライバルに比べてちょっと物足りないという意見もあったのかもしれません。レギュラーモデルも含めて、この分かりやすさこそ、この新型Cクラスのテーマなのかも知れませんね。

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