最強のV8エンジン、AMG6.3リッター

メルセデスのエンジンというと実用的ではあるが、今ひとつ面白みに欠けるというのが一般的な認識ですが、今回はそんな定説をくつがえすAMGの最新エンジンを取り上げてみたいと思います。現在、AMGモデルのエンジンラインナップには5.5リッターV8エンジン(NAおよびスーパーチャージャー付き)、6.3リッターV8エンジン、6.0リッターV12ツインターボエンジンの3機種4タイプのバリエーションが設定されています。このうち最新の6.3リッターV8エンジンにスポットを当ててみたいと考えたのは、その生い立ちが従来のAMGエンジンと決定的に異なる画期的なものだからです。


すなわち従来のAMGの手法とは、AMGの名を一躍世に知らしめることになったあのAMG300SEL6.8に始まり現在に至るまで、メルセデスベンツ製のエンジンをベースにそこにチューニングを施すことでパフォーマンスアップを実現するというのがその基本となっていました。ところが最新の6.3リッターV8エンジンは、その設計から開発に至るまで全てをAMGが独自に手掛けたオールニューのエンジンなのです。限られた条件でのみ使用するレーシングエンジンならいざ知らず、市販車に搭載する量産エンジンを自動車メーカー以外で設計・開発するというのは、現在においてはかなり例外的なことだと言えます。それだけにこのエンジンの開発には、相当力が入っているようです。


  エンジンのスペックを簡単に見てみますと、総排気量6208cc、ボア×ストロークΦ102.2mm×96.6mm、圧縮比11.3、最高出力514ps/6800rpm、最大トルク64.2kg-m/5200rpmと数字からもその凄さが伝わってきます。V8エンジンで6リッターオーバーの排気量を持つエンジンといえば、近年のメルセデスの歴史の中でもPULLMANが有名なW100 600や前述のW109 300SEL6.3、その後継モデルであるW116型Sクラスのフラッグシップ、450SEL6.9に搭載されたエンジン(ベースはW109と同じく600に搭載された6.3リッターV8)くらいなものでしょう。もちろんパワースペックにおいては、最新のAMG V8とは比べるべくもありませんが……。実際、これを超えるパワー・トルクとなれば近年のメルセデスではやはりAMGによるモンスター、AMG SL73(525ps/76.5kg-m)か最近のSクラスおよびCL、SLに搭載されたV12エンジンにツインターボによる過給を行ったS65 AMG(612ps/102kg-m)など、といったあたりくらいでしょうか。世界的に見ても現在NAのV8エンジンで514ps/64.2kg-mという数値に迫るのは、コルベットのZ06に搭載された7.0リッターOHVエンジンがこれに近いパワー(511ps/64.9kg-m)を出しているくらいのものですから、まさに最強のV8エンジンに相応しいものといえそうです。


AMGとV8エンジンといえば、DTM(ドイツツーリングカー選手権)での活躍が連想されますが、この新エンジンはまさにそうしたレースシーンで培われたノウハウが存分に注ぎ込まれたものです。一時衰退したDTMも2000年からレギュレーションが一新され、新たなシリーズとして再び脚光を浴びていますが、その新レギュレーションで設定されたエンジンというのが、4リッターV8エンジンだったのです。前述のように市販車用のAMGエンジンはこれまでのところ既存のメルセデス製エンジンをベースにチューンを施したものだったため、自ずとチューニングにも限界はありましたが、今回は一からの新設計となりますからまさにAMGの持てる技術を結晶したエンジンとなりました。
 


このAMG6.3エンジンの詳細については、次回引き続きご紹介したいと思います。